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2026年2月26日木曜日

時空ハッキング

  「カミーユ、またその難しい顔か。仕事で Java のバグ取りに追われてるパパより、お前の方が深刻そうだな」

 IT企業でソリューション アーキテクトをしている私は、缶ビールを片手にソファへ沈み込んだ。テレビでは『スタートレック ヴォイジャー:24時間の過去』第4話のエンディングロールが流れている。

 カミーユは白銀の髪を指でいじりながら、iPadの画面に並んだ複雑な数式――前回、デカパトリオン ビームを書き換えたあの式――を睨みつけていた。青い瞳には、パパの「Java」という単語への微かな軽蔑が混じっている

 「パパ、Pythonでもなく Java なんて使ってるの?それは論理の迷路で迷子になってるだけだよ。僕が今向き合ってるのは、宇宙そのもののバグなんだ」

 カミーユはiPadをパパの膝に放り投げた。そこには前回解説した、あの因果のズレを制御する数式が表示されている。

 「……またこれか。この ln の分母を 0 にして無限のエネルギーを出すってやつだろ? でもカミーユ、今回の第4話はエネルギーの問題じゃない。爆発を止めようと過去に行ったら、自分たちが爆発の原因だったっていう、逃げ場のないループの話なんだぞ

 カミーユは、まるで理解の遅い生徒を見る教師のような目でパパを見た。

 「パパ、ITエンジニアなら『外部リソース』の概念を忘れないでよ。この数式を単なるエネルギー放射として使うから行き詰まるんだ。量子コンピューティングの本当の使い道は、量子ナノマシンによる因果の『アウトソーシング』だよ

 「アウトソーシング……? 時空を外注するってのか?」

 「パパ?何言ってんの?嫌だなぁ😅。いい、この数式の ψ(波動関数)を、実体を持った自己増殖型ナノマシンの群れとして定義し直す。爆発が起きる『瞬間』に、ナノマシンを惑星全域にパケットのように散布するんだ。彼らは爆発の極性エネルギーをムササビみたいに吸収して、即座にそれを『先進ポテンシャル』、つまり過去に向かう信号 ei(ωt+kr) に変換する。元の式の符号をマイナスからプラスに反転させるだけで、時間は逆方向に流れ始める。パパ、符号を一つ変えるだけで宇宙は書き換えられるんだよ。Javaのセミコロン一つでプログラムが止まるのと同じくらい、シンプルでしょ?」

 カミーユは小さな指で、分母の δ (因果のズレ)を激しくタップした。

 「パパの会社でやるデバッグと同じだよ。爆発という『致命的なエラー(結果)』を、過去のヴォイジャーへ送る『修正パッチ(原因)』の材料に転用するんだ。爆発が起きるから、修正パッチが生成される。修正パッチがあるから、過去で爆発を中和できる。量子演算機がこの  ln(δ⋅S) を1に固定し続ける限り、このループは閉じながらも、救済という『解』を出力し続けるんだ

 私は呆然と画面を見つめた。

 「……なるほど、ステートフルな因果律を、ステートレスなイベント駆動に変えるってわけか」

 「パパ、たまにはまともなこと言うね。その通りだよ」

 「あー……つまり、悲劇を燃料にして、自分たちの過去を上書き保存するって……

 「正確には、『因果律のハッキングによる強制再起動』だね。パパが明日やるサーバーのメンテナンスより、ずっと確実でエレガントだよ

 カミーユは満足げに白銀の髪をかき上げると、iPadを奪い返した。

 「パパ、ビールのおかわり持ってくるから、次のエピソードを再生してよ。次はもっと論理的なミスが多そうだからね」

白銀の髪をなびかせてキッチンへ向かう息子の背中を見送る。

 ei(ωt-kr) を ei(ωt+kr) へ、符号をたった一つ書き換える……。どうやら私の脳内の因果律まで、彼にオーバーライドされてしまったようだ。(白目👀)